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幸いなのは、離れる前に印を施した事だ。
誘拐される前日が娘の誕生日だった。
そのお祝いに、万が一離れてしまっても貴女の側へ私がいつでも行けるようにと、私だけがわかる目印を娘の前歯の裏に施した。5歳の娘は生え変わりが早く、前歯は大人の歯がもう生え始めていたから、誰にも見られなくて私だけしか知らない場所に施した。
だから、誘拐されても場所はわかった。
けど、私は貴族でもなんでもない、少し魔法を嗜んだ平民だ。お抱えの騎士なんていないし、テレポートなどという高度魔法も使えない。衛兵に頼むことはできても、お城の騎士のように賢くないどころかガサツという言葉で出来上がったような男どもだ。娘が救われたとて、無事に保護されない。ご近所さんに頼んでも、見つけた人がお金に目がくらみ奴隷に売られたやら死んだやらと嘘をついて帰ってくるし、全財産をはたいてギルドに依頼したら金欲しさに保護した娘を見た途端怪しいからとどこかに閉じ込め私に返してくれない。
国の姫君にも負けず劣らずの容姿であるがばかりに、素直に娘を返してくれる人がいない。
ならば、私が動くしかないのだ
例え娘のために周りの誰かが死に絶えようとも。
「私しか、娘を助けることができないのよ」
もう他人に任せる気はない
他人は、魔力の糧だけでいい
何度も死に戻って得た情報を私は無駄にはしない。
だから私は今、肺が切れてしまったのではないかと錯覚してしまいそうなほど呼吸を切らし口の中を鉄の味で満たしながら走っていた。
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