03 え、なんて?

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  「マール殿下。わたくしたちは王宮の庭で出会い、それをきっかけとして縁を結ぶ運びとなりました。憶えていらっしゃいますか」 「……ああ」 「婚約という話になり、正式に取り交わす前に王宮に招いていただきました。わたくしのお義兄さまと、殿下の御親族の方も同席されていて」 「そうだな」  ゲーム内では描かれていなかったけど、過去、そんなかんじの会合があった。参加人数を絞った、こじんまりとしたお茶会だ。侯爵家に来たアルヴィンの紹介も兼ねての席。引っ越し早々に通い始めた学院での生活についても、話していたような気もする。  できたばかりの『兄』のことについて知りたくて、耳ダンボで聞いたような気がするけど、細かいことは憶えていない。  たぶん、少女は少女で緊張していたのだ。  就学前の子どもに婚約者とか言われても、よーわからんよね正直。それよりは、あたらしく家族になったひとについて興味がある。  使用人も含め、大人にばかり囲まれていたエルヴィーラにとって、七歳年上のアルヴィンは、もっとも自分に近く、けれど自分よりも大人じみていて。  とにかく不思議な存在だったのだ。  地方から出てきたばかりなのに、しっかりと落ち着いているアルヴィンを皆が褒めるので、それがすごく誇らしかった。  うん、考えてみればマールよりアルヴィンのことばっかりだったな、このお茶会。  回想する私をよそに、エルヴィーラちゃんは生真面目に述べる。 「王宮というのはとても美しく、だからこそ清廉でなければならないような気がして、少なからず重圧を感じました。王家の方が背負っていらっしゃるものの一端を知ったように思います。ですから、殿下が頑張っておられるぶん、わたくしも王子妃として頑張ろうと、そう思ったのです」  たしかに、王宮の空気はなかなか荘厳だった。エリート一家に生まれた子どもは、あんな空気の中で生きているのかもしれないね。はみ出すことが許されない、みたいな。  もちろん、親御さんの方針にもよるだろうけど、王家ともなれば周囲にいる臣下たちが勝手に争う。  誰を推すか。それによって自分の将来の椅子が決定するから必死にもなるのだろう。  子どもに無茶を強いるなよなって思うけど、それは私が外側の人間だからだろうか。いや、今は『中のひと』だけどさ。
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