あの夏に呪われている

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恐怖のあまり、声が震えてしまう。店員が言った「雨降るようにしろよ」という言葉を莉乃は誰かに言った覚えなどない。 「そうですか」 店員は冷たい声でそう言った後、席を離れていく。店員の姿が完全に見えなくなった後、莉乃は深く息を吐いた。ようやく体の震えが止まった。それと同時に、自分の喉が渇いていたことを思い出す。 目の前に置かれたグラスに莉乃は手を伸ばし、透明な水に口をつけた。刹那。 「ッ!?」 口の中に鉄の味が広がる。思わず莉乃はグラスを見た。すると、透明だったはずの水は真っ赤に染まっている。それはまるで血のようでーーー。 「ゲホッ!」 莉乃は口に入った水を吐き出し、グラスを床に叩き付けてしまう。床に落ちたグラスは粉々に砕け、その音は大きく店員が何事かと足早にやって来た。その手には、莉乃が頼んだアイスコーヒーがお盆に乗せられ、運ばれて来た。 「お客様、どうかされましたか?」 「この水、何なんだよ!!真っ赤になって変な味がして……」 そう言いながら莉乃は床に落ちたグラスを指差す。しかし、床に広がった水は赤色ではなく透明だった。
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