あの夏に呪われている

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「クソッ!」 額から流れ落ちた汗を拭いながら、一人の女性が苛立ちを表す。髪はベリーショート、無駄な脂肪一つない体は無地のTシャツを着て、中性的なその顔に化粧っ気はない。 「チッ!」 女性ーーー川口莉乃は舌打ちをする。その舌打ちを耳で聞き、莉乃の怒りに満ちた顔を見た人々は、ヒソヒソと何かを話しながら彼女から離れていく。不審者を見る目が莉乃には今注がれているのだが、彼女はそんなことを気にしていなかった。否、気にすることができないほど心が荒れていた。 大学生の莉乃は、剣道サークルに入っている。幼い頃から剣道を習い、中学と高校の部活も剣道をしていたためだ。 今日は地域で剣道の大会が開かれ、莉乃たちの大学だけでなく、多くの大学の生徒が大会に参加した。この大会が剣道サークルに入って間もない一年生のデビュー戦となっている。 この大会の試合は、個人戦ではなく団体戦である。個人戦と違い、団体戦は五人が順番に戦って勝ち数を競う。その順番やポジションには役割りがきちんと存在する。 一番目に戦う先鋒は、試合の流れや士気を決める重要ポジションである。二番目の次鋒は勝敗が影響しにくく、経験の少ない一年生を出すチームが多い。
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