樹 ーいつきー という木

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樹 ーいつきー という木

 (いつき)はある日、木になっていた。 ずっと、お墓の側に父が植えてくれた櫟の小枝にひっそり腰掛けていたのだ。そのうち木に吸い込まれるようにその気脈となり、櫟と共に少しづつ息をしていた。  父は泣いていた、と思う。  樹自身はこれといって、悲しい気持ちは無かったが、家から離れた寺の裏手、母が眠る隣に父はそっと骨壷をおいてくれていた。それをちょっと遠くから眺めてふらふらしていたのだった。父は樹のいる場所から離れた場所に木を植えて、お前の代わりに成長してきっとたくさんのものを見せてくれるといった。樹はむっくり起き上がって、たいして変わらない背丈の櫟を見て、父の背中を見送った。隣に眠っているはずの母の、その木の枝に腰掛けていなさいと声がして、そのとおりにしたのだった。  それから、何年か過ぎたある夏。 父が、学校へ連れてってやると言って、少し母の元から離れた場所に移った。  桜が墓地の石畳を花で飾ってくれた日。 生まれたけれど、五歳とちょっとでここに来た。 其処から、あの丘の学校を眺めていたけれど、その時に始めて学校というところに連れてきてもらった。たまにお墓に来てくれる少し上の兄たちとはちょっと違う制服だけど、青が空のようで綺麗だった。  其処で、授業というものをたくさん見聞きした。  それから、また何年も、何年も過ぎた。 その間に、たくさんのことが起こった。
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