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終わって力尽きて眠った梛を出来るだけ綺麗にして。
一晩の約束はどこまでかと悩みながら、結局離しがたくて自分のベッドに引き込んで抱いて目を閉じた。
眠れないのが常だった俺が、一番寝てはいけない朝だったのに。
目を開けた時、梛はもう俺の部屋には居なかった。
梛は俺を避けた。
当たり前と言えば当たり前の事だった。
雇い主の、もっと言えば住処を提供している大家の、誘いを断れなかっただけ。
手に残る感触と、耳に残る声に悩まされながら。
俺は梛がいつ出ていくと言ってくるのかを待っていた。
眠れない。
梛が明け方、増やした仕事の帰りに隣の部屋に戻る音でやっと。
まだ梛はここに帰ったのだと確認する。
それでも、ツマミは必ず用意してあった。
変わらない、丁寧な一品が置いてあるテーブルに安堵して。
開けた部屋に今日は梛がいるんじゃないかと言う、阿呆極まりない期待を抱えて。
眠いとか、そろそろ限界だと言う感覚すら薄れて。
ただ、時々微かに聞こえる梛と下の連中の話し声に耳を澄ませていた。
ナギの代わりに梛が泣きながら、ほんの数分の夢に出てくる様になった。
やめてくれと泣き叫ぶ梛を、押さえつけて犯す夢だ。
違う、そうじゃない、好きだから抱いたんだと叫ぶ俺を無視して。
夢の中の俺は梛を押え付ける。
……梛はあの夜、本当はこうして俺を拒みたかったんだろう。
息苦しい。
寝たくない。
もう、泣かせたくない。
俺が意識を手放した時、それを見ていた警備会社の職員は、後で糸が切れた人形みたいだったと言った。
ばつっと目の前が暗くなるまで、俺は何も感じちゃいなかった。
ただ、強制的に引き込まれた眠りの中で梛の夢を見ていた。
それは俺が見せた願望か。
俺が梛を汚す前の、二人で映画を見ていたあのソファーの夢だった。
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