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新鷲の提案
「いや、見なくていい」
新鷲さんは僕のスマホにチラッと視線を向けたけど、触れなかった。
「……悠貴の行方がわからない。部屋に置かれたスマホに残ってた名前で、ウチが中身を把握出来てない人間が、アンタだけだった」
「行方不明なんですか?」
僕の知る悠貴は、どちらかと言えばおっとりしていて。
いつもちょっと微笑んで居るような優しいやつだった。
無責任に誰かを心配させる様なタイプじゃない。
「……先月の頭からな」
今月ももうすぐ終わる。
短い家出じゃないよね。
「そう、ですか。すみません…お役に立てなくて」
悠貴と新鷲さんの関係は分からないけど、こんなふうに僕を訪ねて来るんだ。
心配しているんだろうと思う。
「……もうひとつ、話したい事がある」
「なんですか?」
新鷲さんの視線は重い。
意味もなく肩を押さえつけられてるみたいな、変な感じだ。
「悠貴が戻るまで…アンタと密に連絡を取りたい」
え、嫌だ。
勿論、悠貴の事は心配ではある。
だけど、何も知らない僕とこの人が何で連絡を取り合わないといけないんだろう。
僕は何でも顔に出やすいタイプだ。
「悠貴が今まで、友達だと俺に話したのはアンタだけだ。もし連絡をするならアンタ以外考えられない」
「……」
アンタはそのまま生活してくれて構わない、俺が行く。
と、新鷲さんが言った。
……どっちが会いに行くとか、そんな問題じゃなく無い?
それに大学まで進んだ悠貴に、僕以外の友達がいない訳ない。
「……」
断りたい僕の気持ちが多分顔に出ていたんだと思う。
新鷲さんが、じっと僕の目を見据えて続けた。
「悠貴の親が、元反社なのは知ってるか?」
「へ?」
今知った。
と言うか、貴方は?
「……俺は、悠貴の護衛兼、世話係だった」
「……へぇ」
元、とは言えとんでもない人と関わってしまった。
……後悔先に立たず、だ。
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