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それは、俺の誕生日の夜だった。
俺一人だけが重ねていく歳。
毎年、苦痛で。
この日だけは深く眠って一日目覚めなければいいと思って過ごす日。
梛のツマミを食べて、あいつが映画を観ていたら。
それに付き合えば日付けが変わる。
そう思って開けたドア。
テーブルの上は、梛の気持ちで溢れていた。
それが俺の誕生日に作られた物だと、梛が言った瞬間。
俺は俺の胸に芽生えた感情を許せなかった。
……嬉しい。
他の人間から知らずに差し出される祝いは、苦痛なだけだったのに。
俺の中のそれは、喜びだけだった。
妹が願って楽しみにしていた18の誕生日。
あれはもう病室に居た。
デカい丸いケーキも、テーブルに乗りきらない程のご馳走も、結局食わずに逝った。
それが目の前にあって、俺はそれを嬉しいと思った。
咄嗟に出たのは礼でも、感謝でもなく、拒絶の言葉だった。
変えないでくれ。
俺を、妹を忘れて歳を取る事をよしとする最悪な男にしないでくれ。
食ってきたと素っ気ない言葉で梛の好意を蹴り飛ばした。
梛の目が揺れて、それを吐きそうなほど後悔して。
それでも俺は風呂場に逃げ込んで梛に謝りもしなかった。
熱いシャワーを気の済むまで浴びて、戻ったリビングに当たり前だが梛は居なかった。
テーブルの上は綺麗に片付けてあった。
俺ならしない。
てめぇの為に作ったもんだ、てめぇで片付けろとそのままここを出たはずだ。
いや、蹴り飛ばして散乱させたかもしれない。
大して得意でも無かったはずの料理を、俺の思いつきで言った一品の為に努力してくれた。
施しじゃなかったから。
美味いもんを出してやりたいって気持ちが見えたから。
手放しで褒めてやれない代わりに残さず食べてきた。
開けた冷蔵庫には、手もつけずにラップをかけた料理が綺麗に入っていた。
俺を待っていたのに。
誰かに聞いた俺の誕生日を祝おうと、多分急いで買い物にも行っただろう。
それを俺は、ニコリともせずに受け取らなかった。
自分の感情だけを優先して、梛の気持ちを踏みにじった。
クソ野郎だ。
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