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明日の朝じゃ遅い。
この料理を食べるのも、梛に謝るのも。
一本開けたビールを飲みながら。
それでも俺は迷った。
これから梛の部屋に行って何になる?
邪魔だ出てけって、多分梛は俺を追い出す。
俺なら間違いなく、そうする。
二度とてめぇに飯なんか作るかって蹴り飛ばす。
……拒絶されるのが怖いなんて、知らなかった感情だった。
人生で初めて、恐れを抱きながら梛の部屋のドアを開いた。
誕生日が嫌いなんだと、ナギの事を伏せてでも説明する為に。
お前の好意は嬉しかったんだと。
受け取れなかったのは、俺の我儘だと。
薄暗い窓からの光の中で、ベッドで丸くなる背中が見えた。
近づいてその膨らみが緊張しているのが見えた。
身体を固くして、聞こえる吐息が震えていた。
梛は、怒りではなく、悲しみを滲ませていた。
だめだ、手を出すなと警告する俺と、だめだ、我慢がきかないと諦める俺と。
俺は楽な方を取った。
後で後悔する。
素直に、家族にもにた親愛をくれる梛を汚す事になる。
でも、触れた髪の震えも、もう出てけと言った声の湿りも。
愛おしいと思った。
馬鹿みたいな男でも、こんな感情になるのだと遠巻きに自分を理解した。
触れたい、抱きたい、一晩だけでも。
いや、一晩で十分だ。
この渇きを、一瞬でいい。
受け止めて欲しい。
梛は驚きながら、でも腕を開いて俺を受け入れてくれた。
そのあまりにすんなりとした仕草に、俺は梛に経験があるのかと思った。
もしかしたら、男に触れられる耐性があるのか。
一瞬で込み上げた苛立ちは、数分で溶けた。
強ばらせた身体も、俺の手の感触に戦慄く肌も…余りに不慣れだった。
どこもかしこも肌触りがいい。
堪えきれず漏らす声が艶っぽくて、耳で拾う度に興奮は上乗せされていった。
他の男なら死んでも触れたくないのに、その感触は俺を絡めとって没頭させた。
手の中で弾けた途端に仰け反って、俺の腕を強く掴んで震えて跳ねる身体が死ぬほど愛おしいと思った。
優しいセックスなんてしてこなかった。
ましてや、経験を重ねてきた女でもない。
梛がいいのか、そうでないのか。
同じ男の自分にある感覚だけを頼りに、触れた。
その手のセックスの情報は、聞きたくなくても回りに溢れていた。
男を好む他の組の頭の乱交を遠巻きに見ていたこともある。
その時は吐き気を覚えたが。
梛は違った。
目が慣れた暗闇で見えた薄く開いた唇も。
眉間に寄せた皺も。
飲み込まれて乱れる様も。
他の誰とも違った。
他の誰より綺麗だった。
俺の熱に手を伸ばす健気さに、やめてろうかと思う反面で、奥深くまで抱きたいと思いながら。
俺は結局、我慢を手放して最後まで梛を抱いた。
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