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いつも、限界間近で眠れた時には夢も見なかった。
今回は寝ている間中、梛を感じていた。
目を開けた時の俺の感情は最悪だった。
自分の願望が見せたひたすら都合のいい甘ったるい夢だった。
梛の香りや、感触がやけにリアルで。
目を開けて、その現実とのギャップを感じた瞬間に呻いた。
居ないものを、求めて願う年月をまた繰り返すのか。
それが、どれだけ無意味か、死ぬほど理解しているはずの頭が梛を思い浮かべる事をやめられない。
「……クソ野郎」
頭をかち割って、ぐちゃぐちゃに踏み潰してしまいたい気分だった。
浜崎に押し込まれた自分の部屋のソファーで、俺はどうしようも無い感情を持て余し、結局それから眠れずに朝を迎えた。
いつもの時間に、隣りのドアが開く音がした。
足音に気を付けた、梛の気配が部屋の前を通り過ぎる。
俺が眠れる様に、その音を気にした歩き方は変わらずにいつもそこを通り過ぎる。
梛の、そう言うところが可愛いかった。
揶揄えば小型犬みたいな分かりやすい反撃をする目も、それでも俺に配慮する生真面目な所も。
俺が渡す、大して価値のない物に子供みたいな顔で喜ぶ所も。
最初はナギへの罪滅ぼしの為だった。
そのはずだった。
……俺は妹を重ねたりしていなかった。
もう、随分早い段階から…梛だけを見て、梛だけを喜ばせたかった。
好きだった。
もうずっと。
それに気付かないふりをしていたのは、防衛本能だ。
俺とは違う真っ直ぐな梛が、俺の傍から離れない訳が無い。
縛られている物が終われば、必ず陽の当たる所で生きていける人間だ。
こんな、腐った所から出てきただけの、所詮は腐りかけの男の傍にいていい人間ではない。
梛が笑って、俺から離れて行く時に。
俺は当たり前の顔で、あれに手を振ってやりたかった。
……それなのに。
次に梛が俺の前に現れたら。
俺は_。
布が擦れる音がした。
それと同時に、いつも梛の服からする柔軟剤の匂い。
腕をどけた先に、目を見開いた梛が立っていた。
俺に掛けてくれようとした掛け布団を握りしめて。
目が合った瞬間、梛は何故か泣きそうな顔をした。
その目に心配と、微かな感情の揺らめきを見て。
やめろと止める自分の頭の中の声を無視した。
腕を掴んで引き寄せた。
頼むから。
ここに居てくれ。
本心は、懇願は…俺の理性よりはやく梛を拘束した。
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