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突拍子もないことを言い出した今西に、里田は口を大きく開けて反論した。
「さ、殺人事件!? 何を言ってるんですか、今西さん!
俺たちだって確認しましたけど、乗車しているのは運転手の男だけでしたよ?
もちろんどこかに隠れられるような場所もなかったし、車から抜け出すような隙もなかった!
殺人事件だとしたら、犯人はどこへ消えたって言うんですか!?」
「そこまで観察していて気付かなかったのか?
男の腕にはな、刺されたような跡があったんだよ。あれが死因だとは考えられないか?」
「ま、まさか、注射器で遅効性の毒を――」
男は車に乗り込む前に誰かに注射をされていたのかもしれない。
そして、運転中に、その注射に仕込まれた毒が身体を回ったという可能性が――。
「いいや、注射器で刺されたような跡ではなかったし、怪しまれずに毒入りの注射をできる者など限られている。
それに俺たちが窓から男の姿を確認したときには、まだ犯人は車内にいたんだと思う。
その後、俺たちに気付かれないようにこっそり抜け出したんだ」
「俺たちに気付かれないように!? そんなことできるはずが――」
「いいから、黙って聞け。単純な話だ」
そこで今西は一呼吸置いて、こう言った。
「犯人はスズメバチだ」
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