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「あっちいなあ。なんだよ、ちゃんと冷房効いてんのか?
おい里田、これ壊れてんじゃないのか」
都内某所。真夏の車内。
頑固そうな髭面のアラフォー男は、ぼやくように呟きながら白いタオルで顔を拭っている。
それに対して、運転中の誠実そうな若い男は困ったように返答した。
「ですから、壊れてるんじゃなくって、わざと高めの温度に設定してるんですってば。
クールビズだとか経費節減だとかで、あんまりガンガン冷房つけるわけにもいかないんですよ。
今西さんだって署での規定は知ってるでしょ」
「にしたって、生温い風が出てくるだけじゃねえか。
これじゃサウナと変わらねえよ」
困り顔の里田には同情を禁じ得ないが、今西がぼやくのも無理はない。
その日は例年稀に見る猛暑日で、最高気温は35度を超えるらしいと、さっきから流しているラジオのDJが言っていた。
ふたりは警察官であり、パトカーで市内をパトロール中だった。
新米刑事の里田にとっては、ベテラン刑事の今西はあこがれの対象でもあったが、ぼやきの多さだけはどうにかして欲しいものだ。
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