柊さゆり・葛城誠一

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柊さゆり・葛城誠一

 その日、レセプションホールはかつてない緊張感に包まれていた。多くの経営者、メディア、投資家たちが席を埋め、壇上に立つ彼女の言葉を見守る。  彼女の名は柊さゆり。独自AI『アポロン』を一人で開発すると、その名を冠した企業を設立。交通支援や医療、コンサルなど幅広い分野で『アポロン』を転用した結果、爆発的な成長を遂げた。 「何度経験しても、慣れませんわね。こうして見られるのは」  今ではAIを基盤としたスマートシティ建設を国内外で展開し、世界でも注目されるカリスマこそ、さゆりという人物である。そんな彼女が、今新たな事業に進出しようとしている。その様子を、皆が固唾を飲んで見守っているのだ。 「ある時誰かがこう言いました。『地球は、青かった』と。」  会場全体が暗くなり、自身にスポットライトが当たる中、さゆりは目の前の人と会話を交わすような声色で話し始めた。 「そして人類は、月に降り立った。でも、それはあくまで立っただけに過ぎない」  スクリーンが煌々と光り出す。3DCGをふんだんに盛り込んだ映像が投影されていく。月の上を飛ぶ無数の宇宙船。着陸するや否や降り立つ大勢の人びと。月面には車が走り、家々が建ち並ぶ―。 「弊社は……いいえ。人類は、次のステージへと向かいます」  そして映像の最後、そのタイトルが浮かび上がった。 「株式会社アポロン『月面都市プロジェクト』、本日よりスタートいたします!」  彼女の言葉から十数秒後、ようやく会場から大きな拍手と反応が返ってきた。さゆりが掲げたものの大きさから、咀嚼に時間がかかったのが実状である。
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