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プロローグ
『僕の夢は、月面到達です』
陽が高く昇り、蝉の声が蒸し暑さを運び始める頃。少年は原稿用紙を広げ、高らかにそう宣言した。あまりの唐突さに響く笑い声が教室の窓の外へ漏れ出す。
『近い将来、みんな月面に行くのが当たり前になると思います』
少年は気にすることなく読み進める。
『僕は、みんなより先に月へ行って、みんなが暮らせる家を作ってあげたいと思います』
教室は笑い声に包まれた。それは少年の言葉に対する嘲りだった。「馬鹿なことを書いてきたものだ」と言わんばかりに手を叩いて彼を指差す。
それでも読み切った彼は、満足そうに担任の顔を見た。
『君ね、いい加減なことを書くものじゃないよ』
担任が彼にそう諭す。
『もう小学校6年生というのに情けない。ほら、みんな笑っているじゃないか。テーマは「将来の夢」だ。真剣に考えてものを書きなさい』
眼鏡をくいと上げ、少年を突き放す。彼の顔はさすがに曇り、下を向いた。少年の存在は瞬く間に笑い声の中へと埋もれていった。
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