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次世代型国産ロケットプロジェクトとは、政府が進める宇宙開発事業である。日本企業の英知を結集させ、月へと打ち上げるというものだ。
成功すれば、このロケット自体が世界に向けての広告塔となる。それを機に各部品の海外輸出を進め、やがては宇宙市場のシェアで優位に立つことが目標である。
『その計画、是非とも私にお任せください』
アポロンもとい、さゆりがこの計画に乗らない手はなかった。ロケット開発が成功すれば、地球から月への航路を拓くことになる。月面都市建設の足掛かりとなるのは確実だった。
『一応コンペ形式にはなりますが、アポロンさんがやっていただけるなら心強い』
内閣府の担当部局もかなり前向きな感触を示していた。その言い方から、先日のさゆりによる月面都市構想の発表以来、彼らもアポロンを頼っているようだった。このまま流れるように計画が進んでいく……はずだった。昨日までは。
「ほんと、最悪」
今朝のさゆりは特に不機嫌だった。後部座席から眺める景色はそれを知らぬ存ぜぬと通り過ぎ、鉛色の雲から無数の雨粒が地面を叩く。それが余計に彼女の気に障った。
先ほど、その担当部局から連絡があった。彼女たちのほかに、もう1社入札参加を申し出てきたのだという。
『まあ、そういうこともあるでしょう』
その時までは、彼女も特に何ら気にすることはなかった。
『ちなみに、どちら?』
問題はそこからである。
「……華陽が出るって、どういうことよ!」
空になったコーヒーのカップを横の窓に叩きつける。
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