21人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「やはり自分は反対です」
ハンドルを握るCOOの滝沢孝輔が声を上げた。さゆりの苛立った眼差しがこちらに向かう。
「滝沢君、何か文句あるの」
停止線に差し掛かる直前、信号が黄色へと変わり、滝沢は急ぎブレーキを踏んだ。
「代表もご存知でしょう、今期の見通しが悪いって」
「出た、またその話……」
「この前も銀行に言われたじゃないですか」
アポロンはスマートシティ建設などの大型契約を受注してきたが、AI開発や研究に投じる費用は膨張を続けている。そして今期に入り、いよいよ財務の逼迫が見過ごせないものになってきた。
「ここで賭けに出るのはあまりにも無謀です。さらに開発費をかけるなんて……むしろ減らすべきでしょう」
「未来を拓くアポロンがそんなことでどうするの。そんな守りの姿勢を嫌ってここを作ったんじゃない」
「アポロンは既に我々だけのものじゃないんです!」
滝沢の声量が上がり、さゆりが舌打ちで返す。
「あはは、おもしれー」
空気の読めない笑い声が割り込む。助手席の葛城が漫画誌をパラパラとめくった。
最初のコメントを投稿しよう!