大平葵・柊さゆり

4/7

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「やはり自分は反対です」  ハンドルを握るCOOの滝沢孝輔が声を上げた。さゆりの苛立った眼差しがこちらに向かう。 「滝沢君、何か文句あるの」  停止線に差し掛かる直前、信号が黄色へと変わり、滝沢は急ぎブレーキを踏んだ。 「代表もご存知でしょう、今期の見通しが悪いって」 「出た、またその話……」 「この前も銀行に言われたじゃないですか」  アポロンはスマートシティ建設などの大型契約を受注してきたが、AI開発や研究に投じる費用は膨張を続けている。そして今期に入り、いよいよ財務の逼迫が見過ごせないものになってきた。 「ここで賭けに出るのはあまりにも無謀です。さらに開発費をかけるなんて……むしろ減らすべきでしょう」 「未来を拓くアポロンがそんなことでどうするの。そんな守りの姿勢を嫌ってここを作ったんじゃない」 「アポロンは既に我々だけのものじゃないんです!」  滝沢の声量が上がり、さゆりが舌打ちで返す。 「あはは、おもしれー」  空気の読めない笑い声が割り込む。助手席の葛城が漫画誌をパラパラとめくった。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加