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『あのっ!』
少年は斜め後ろの彼に声をかける。彼は誰も寄せ付けずに、ただひたすら眼鏡を拭き続けていた。
『……ありがとう。みんなに夢を笑われて心細かったから』
『俺だって無理だと思ってるよお前のこと』
『え……?』
思わぬ一言に硬直する。
『そんな……』
『その夢は俺がいただく』
さらに思わぬ一言に目を丸めた。
『ど、どういうこと?』
『俺が先に叶えるから、お前には無理』
少年の顔はみるみる明るくなっていった。
『やっぱり君も、そう思うんだね!? そんな時代が来るって』
『じゃあ勝負しようぜ、どっちが先にあそこへ行くか』
彼の指さす先には、白い月が薄っすら空に浮かんでいた。
『うん!』
活発な少年の応答に、眼鏡の生徒は思わず笑みを零す。それは間違いなく嘲りではなかった。あるいは後に待ち受ける結末を確信して。
『負けないよ、葛城君!』
彼の名は、葛城誠一。
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