北辰の星影

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 昼間の日の光は格子窓から畳に落ちて、陰影なく、すべてをあからさまに映し出す。  弘紀の青い艶やかな小袖の裾は渦巻く潮の様に修之輔の足に絡まって、修之輔の鼻腔は弘紀の首筋から湧く匂いで満たされる。弘紀の端正な顔立ちが間近に、その髪に自分の頬を擦り、額に口づけし、手のひらで素肌の腿を撫で上げる。  弘紀は上体を半ば修之輔に預けて、懸命に修之輔の陰茎を愛撫し続けていた。弘紀の指の腹で先端を擦られ、形良い指で茎を扱かれる度にそこに熱が集まっていくのを修之輔は痺れるような快楽とともに感じていた。屹立しはじめた修之輔の昂ぶりを弘紀は愛でるように眺め、口腔に貯めた唾液をゆっくりと修之輔の陰茎に垂らしていった。  弘紀の品よく形良い唇からたらたらと垂れる唾液が修之輔の亀頭を濡らし、裏筋まで垂れて流れる。つ、と根元まで雫が垂れ落ちるのを見届けた弘紀は修之輔の陰茎への愛撫を再開した。  ぐちゅぐちゅ、くちゃくちゃと濡れた音が部屋の中に響き始める。淫らに蕩ける弘紀の顔にしばらく見惚れていた修之輔は、弘紀の襦袢の裾を捲り上げて下帯の中に手を潜り込ませた。手には引き締まった尻肉の弾力が伝わってくる。いつもならば十分に堪能する時間はあっても、今日は弘紀に急かされている。感触を惜しみながら割れ目の奥、細やかな襞の真ん中でひくつく弘紀の後孔に指先を忍ばせた。 「んっ、あっ、あんっ」  皮膚の柔らかな孔の周囲を揉むように解し、人差し指の先を沈ませる。それだけで、まだ粘膜に届かなくても弘紀の身体の熱が伝わってきた。爪で傷つけないよう慎重に、けれど日頃から修之輔を受け入れている弘紀の身体は自ら、中へ中へと誘い込んでくる。弘紀の陰茎の先からは既に先走りが溢れ、下帯には濡れた染みが広がっていた。 「お……く、まで……、いれ、て……、ん、だいじょう、ぶ、だか、ら」  荒く乱れる息の合間から弘紀が修之輔にねだってくる。耳に注ぎ込まれる弘紀の甘い吐息に、修之輔はこの上なく強く欲情を煽られた。 「弘……紀」 「秋生、……もっと、おく……あっ、おく、、かき回して……!」  修之輔の陰茎を握っていた弘紀の手は離され、代わりに修之輔の肩に加減なくしがみ付いてくる。 「あき、う、の……指、気持ちいい……、んっ、ああ!」  既に潜り込ませていた人差し指に加えて中指も挿し込んで、弘紀の望み通りに中の粘膜を掻き回す。濡れた水音は今度は弘紀の身体の中から聞こえ始めた。  修之輔は開いた手で自分の陰茎に垂れる弘紀の唾液を掬い上げ、弘紀の孔に塗り込んだ。くちゅくちゅと鳴る音は弘紀の劣情を煽るのか、その腰が修之輔の指の動きに合わせて緩やかに揺れ始める。 「はあ、ん、……あん、あ……」 「弘紀、もう、いれても……」  弘紀はがくがく首を上下に振る。既に快楽が弘紀の思考を奪い始めているようだった。  互いに上半身の着物はほとんど乱れないまま、下半身だけが浅ましく快楽を求めている。修之輔は弘紀の美しい青い小袖の裾を乱して、弘紀の足の付け根まで素肌を晒して下帯を取り去った。  下帯が取り去られた後の目の前には、硬く上を向く弘紀の陰茎があった。屹立した弘紀の陰茎を咥えて口と下で舐め回し、吸い上げ、射精するまで愛撫したい衝動を抑えて、修之輔は赤くふっくらと柔らかい弘紀の肛門に自分の亀頭を押しあてた。 「ひといきに、入れるから」  そう、修之輔が弘紀に告げる間にも、弘紀の孔は亀頭を吸い上げるように蠕動を始めている。 「ん、……わか、りまし、た……、え、あ、あぁっ!」  呑み込んで来ようとする弘紀の孔の蠢きに堪えられず、修之輔は弘紀の腰を強く掴み十分に勃起した己の陰茎を菊穴に突き入れた。 「あ……あ、入って、くる……っ、なか、なかに……っ!いっぱい……あ、 はあっ……、あああ!」  対面座位で互いに半身を起こしたまま、突き入れられた修之輔の陰茎は戻ることなく弘紀の肉壁をさらに奥まで押し開いていく。 「はあっ、ああ! はあっ、……んあ、んっ、あぁ!」  根元まで修之輔の陰茎を咥え込むと、弘紀は自ら腰を上下に動かし始めた。やがて上下する間隔も、腰の振りも大きくなり、弘紀は夢中で修之輔の肉棒で自らの肉壁を擦る快感を貪り始めた。  修之輔の陰茎の皮膚から伝わる口腔とは違う熱い粘膜の濡れた感触。締め上げてくる孔の蠢きは極上の快楽を修之輔にもたらしていた。肉壁の感覚だけでなく、目の前の弘紀は頬を紅潮させ、いつもはくっきりと弧を描く眉を快楽に歪めて目からは快感の涙を溢しながら修之輔の肉が与える刺激を貪っている。  品よく整う顔立ちと淫猥な肉のうごめきの落差はそれだけで眩暈を覚えるほど淫蕩で、けれど弘紀の素直な欲情の発露がこの上なく愛おしい。  ねっとりと粘液を絡めながら、弘紀の孔に修之輔の肉棒が何度も出入りを繰り返す。その様子は二人の目の前、昼の陽の中にあからさまに映し出されていた。  くちゃくちゃと鳴り続ける体液の音の中、やがて修之輔は弘紀の意思とは異なる蠕動を肉壁から感じ、その腰を両手で掴んだ。 「あ……、い、く……、もう、いき、そう……!」  修之輔にそう訴えて、弘紀は首をのけ反らせた。その肩口を顎で、その腰を手で押さえ、修之輔は下から穿つ強さで突き上げた。 「ああぁ、あ、あ、あああああ!」  二度、三度と繰り返すと弘紀の口から洩れるよがり声は止めどなく、修之輔の肩に縋りついていた弘紀の手からは力が抜けて落ちた。崩れる弘紀の背に手を回して床に横たえる直前に、修之輔は一度陰茎を引き抜きいてから勢いをつけて弘紀の腰を引き付け、強く結合を繰り返した。 「んぁっ!……あんっ……」  弘紀の性器が波打つように痙攣し、先端から勢いよく精液が吹きあがる。修之輔はその先端を片手で掴み、手のひらで全てを受け止めた。生温かく白濁した弘紀の精液が指の隙間から流れてとろりと手首を伝っていく。  懐紙では拭いきれずにこびり付いた体液は、焦点がまだ曖昧な弘紀の目の前で舌で舐め取った。潮の味、青臭い精液の匂いに修之輔の欲情が急速に高まっていく。  修之輔は快楽の放出にひくつく弘紀の身体を抱え直して、射精の衝動のままに自分の昂揚を突き入れた。 「あ……、あ……、あ……、んふっ……、あんっ」  忘我の快楽の余韻に浸っていた弘紀は、強引に性感の淵に引き戻されて大きく喘いだ。  放精の後の敏感なままの身体で奥を何度も何度も繰り返し突かれていると、やがて弘紀から一度離れた意識が戻って来た。自分の体の内を擦る修之輔の濡れた肉棒の感触はカリの凹凸までも感じられ、いく前よりも鋭敏に体中を掻き回す。射精の衝動がないままで明確になる感覚は、新たな快楽の刺激を弘紀の身体の中に呼び起した。  ほとんど無意識のうちに緩やかに自ら波打つように蠢き始めた弘紀の腰は修之輔の注挿の律動と同調して、弘紀の意識はまた快楽の波にまた呑み込まれていく。 「あ……、んっ……、あんっ、あっ、ああ!」  唇の端から唾液を垂らしながら快楽を声を止めどなく漏らす弘紀の身体を揺らし、肉の熱さ柔らかさに放出を促された修之輔の体液は一滴も漏らさず弘紀の中に注ぎ込まれた。   外を吹く風が表戸を鳴らした。海へ戻る風が吹き始めたのなら、そろそろ夕方になる。  弘紀の呼気が落ち着いたころを見計らい、修之輔は水を絞った手拭いで弘紀の身体を拭き清めた。弘紀の私室で交合するときの同じ仕草で、修之輔にすべて任せる弘紀もいつもどおりだった。 「起きられるか」  弘紀が頷いたのを確かめて、肩を抱いて畳の上に座らせる。一瞬、自分の首筋に弘紀の唇が吸い付いて、けれど直ぐ、名残惜しげに離された。  弘紀の乱れた着物を直すのを手伝ってから修之輔が自分の身づくろいを終える間に、弘紀は三和土に下りていた。先ほどまでは畳の上にうねっていた青い海の色は、質素な黒羽織の下に隠されている。  今日はほとんど見ることのなかった弘紀の肌を思うと、過ぎたはずの欲情が修之輔の身の内を微かに灼いた。  けれど交情の片鱗は表戸の外、吹き過ぎた風に掻き消された。屋外に出た弘紀は迷いのない足取りで長屋の裏に回り、修之輔は弘紀のすぐ後ろに付き添った。  楠の木が葉を茂らせる三の丸の片隅、小さな祠の前で二人は足を止めた。  祠の正面には握りこぶし程度の鈴が掛けられ、結わえ付けられた赤白黒の三色の引き布が風に揺れている。弘紀は躊躇なく祠の格子扉を開けて中に入った。人一人がようやく立てる程度の祠の床の石板は外れるようになっていて、その下は二の丸御殿へと続く隠し通路になっている。戦国の世には要塞だった羽代城の仕掛けの一つだった。  古の通路の先に弘紀の姿を見送って、修之輔は石板を戻し、祠の扉を元に戻した。この通路の先が二の丸御殿のどこに繋がっているのか修之輔は知らない。いなくなった弘紀の身体の余韻を確かめるように、弘紀の熱に触れていた手のひらを自分の頬に触れてみた。  日は沈み、上弦の月が城の屋根にかかっている。  夜間の訓練中に修之輔が身に付けるのは羽代の士官の制服であるレイション羽織である。濃紺のウールの生地は夜に紛れて、周囲を進む馬廻り組の部下の銃が時折、月の光を映して光る。  修之輔の視線の先の草むらでは、山崎が率いる歩兵隊が腹ばいの行軍をしているはずだ。馬廻り組は騎乗している馬とともに周囲の見張りをする役割だった。弘紀に借りた松風は、修之輔を背に乗せていることを忘れているように、艶やかなたてがみを海からの風になびかせて夜の散歩を愉しんでいる。  城の屋根にかかる上弦の月。屋根は重なりどこからどこまでが一つの建物なのか分からない。けれど。  月の円弧に触れる辺りにちらりと揺らぐ灯りがあった。海に面する羽代城の最も高台にあるのは観月楼。たとえ姿は見えなくても、北の空には北斗の星。人を欺く狐火よりも、人の行く先を導く確かに星の光。  北辰の星をきっと今、二人で同時に見上げている。  修之輔はそう思った。
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