オイカケババア

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 五時間目が終わる頃、清海はぐったりとしていた。オイカケババアのことを聞き付けて、ほかのクラスからも画像を見せてほしいと頼みにくる生徒が頻発したのだ。画像を見せたあとは、どうやったの? という質問祭り。どうもこうもない。偶然たまたまだと、何度同じ説明をしたことか。  もうしばらくはゲームをやりたくないし、オイカケババアの顔も見たくないと思うほど、清海は疲弊しきっていた。小学校五年生は微妙な年頃だ。アイデンティティが不安定で、そのくせ一丁前に承認欲求はある。だから、自分より目立つ生徒には敏感で、特に女の子は列からはみだすことを許さない。それが例えゲームであっても、ひとりだけ目立つというのはやっかみの対象に成り得る。  今日一日、みなから羨望と嫉妬のまなざしで見られ続けた清海は、迂闊に自慢してしまったことをひどく後悔していた。もう二度とレアキャラなんか出なくていい。そんなふうに思いながら靴箱からローファーを取り出すと、のろのろと足を突っ込んだ。  ランドセルを担ぎ直し、学校をあとにする。五月の生温い風が清海の髪を揺らすと共に、なにか得体の知れない悪臭が鼻を突いた。はっとして後ろを振り返る。今朝、感じた誰かの視線。それを今も感じる。変質者だろうか? と、ランドセルのベルトをぎゅっと握りしめ、清海は足早に校門を出た。
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