オイカケババア

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 右、左と辺りを見回し、もう一度、後ろを振り返る。誰もいない。誰もいないけれど、誰かいる。そんな妙な気配を感じ、清海はローファーの足裏に力を込めた。学校から家までは徒歩20分。走れば15分ほどで着くはずだ。  ゲームの主人公になった気分で、清海は勢いよく地面を蹴った。ランドセルがわさわさ揺れ、中で教科書や筆記具がカタカタと音をたてる。スカートがめくれあがるのも気にせず走り、赤信号で止まった清海はもう汗だくだった。膝に手をつき荒い呼吸を吐き出しながら、ちらと後ろを振り返る。  誰もいないはずだった。けれど、清海は確かに見た。こちらをじっと見ている、ふたつの落ち窪んだ目。ぼさぼさの長い髪に、フランケンシュタインのように縫われた口。  ──オイカケババアだった。  ごくりと喉が鳴る。信号が青に変わっても、足が震えてうまく走れない。清海とオイカケババアの距離は約五メートル。どこからどう見ても老女だ。追い付けるはずがない。必死の想いで横断歩道を渡りきり、清海は転げるように走りだす。
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