アンドーナツ

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アンドーナツ

 一人の男がいた。名は安藤。幼少の頃から甘い物が大好きで、三時のおやつを心待にする楽しい日々。  その昔、保育園の先生が言った。 「安藤君は、なつちゃんという子と結婚すればいいわ。アンドーナツで、きっとその子を大好きになって、とても大切にするわよお」  五歳の安藤君、その言葉が胸に焼き付いた。そして決心した。 (よーし、ぜったいに、なつちゃんというおんなのこをみつけて、けっこんするぞお)  小中高大の学生時代、なつという名前の女の子は周りにいなかった。  卒業して希望どおりのお菓子メーカーに勤めたが、そこにもなつという子はいない。  安藤君、思案した結果、 (お見合いしかない!)  そう判断した。  四つも結婚相談所に登録し、なつという女性を探し求める。  係の者に、 「ぜひともなつという女性を紹介してください」  と言い含めていた安藤君。  一年後、ひとつの相談所から連絡が入った。 「安藤さん。奈津という女性、紹介できます。年齢もぴったりです。美人ですよ。どうです。お見合いを」  願ったり叶ったり。  安藤君、すぐさま奈津さんとのお見合いに臨んだ。 「き、きれいだ……」  写真以上に実際の奈津さんは美人だった。スタイルだって抜群だ。少々神経質そうだったが。  すっかり気に入った安藤君、単刀直入、すぐさま申し入れた。 「ぼ、僕と結婚してください」  なつさんはコクリと頷いた。  やった。やった。  安藤君、ついに幼少の頃からの夢、〈アンドーナツ〉さんを手中に収めることができたのだ。  新婚の安藤君、会社帰り、駅前でお菓子のお土産を買い、いそいそと帰宅する。 「た、ただいまあ。ごめんね、二十分も遅れて」 「遅い!安月給。さっさと夕食作って風呂を入れな。そのあとトイレ掃除。あんたはどれいなのよ。わかった?」  安藤君は幸せ。言うことない。  たとえ、辛口のアンドーナツだったとしても。
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