梅雨入りしたある日

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梅雨入りしたある日

梅雨入りしたと天気予報で言っていた。 雲が広がり、周囲は暗くなる。 湿度が増していくのを肌で感じる。 「これから雨が来る」 私の直感は外れたことがない。 どれだけ降るのかは予想できないのだけれども。 (土砂降りは嫌だな) 今日の服はお気に入りのガーリーなブラウス。 祖母からの形見だ。 丈もシルエットもいいから使わせてもらっている。 保存状態も良くて、新品のようにタンスに入っていた。 雷が遠くの方でなり、大雨になる。 警報も出た。 停電もしたようだ。 懐中電灯とろうそくで光源を確保する。水道とガスが問題いなく使える か確認し、スマホの残り少ないバッテリーを使って友人に今のところ大丈夫と送る。 「これからどうなるかわからないけどねぇ」 飲み水はできるだけ確保した。これを使わないといいのだが。 母は、災害が起こったときには逃げるでもなく、仏壇の前にいる。 祖母と同じように。 「ねぇ、避難所に行った方がみんないるし、多少安全だよ。早くいこうよ」 「そんなことない。ご先祖様が守ってくれるから安全なんだ」 「もう」 「あんたに手紙だよ。ばあさんからだ」 仏壇の奥の方から手紙が出てくる。 「私宛」 警報が出て土砂降りの日には運命の人にであうから。 綺麗な服を着るようにと。 (こんな天気に出会いなんてあるものか?) 運命の出会いどころか命の危機さえあるのだが。 警報も避難指示も出ているけれども、今のところ大きな異変はなさそう。 「何とかなるかな」 ゴロゴロ、ドーン 音が響く。 雷が落ちたようだ。 近くの林に。 「怖い」 布団の中で丸まっていた。 風の音も雨も聞こえないように。早く不快な天気が変わるように祈りながら眠りについた。
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