マラソン大会と雨と僕の片思い

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 僕は真っ黒なマグマみたいな気持ちでそれからの日々を過ごした。そうして家に帰ると、逆さてるてる坊主を毎日作り続けた。マラソン大会の前日の夜に、テレビで天気予報を見ると、明日の降水確率は50%となっている。 僕は暗い笑みを浮かべて100個目の逆さてるてる坊主を部屋に吊るした。これで完璧だ。 けれども、次の日はぴっかぴかの晴天だった。 僕はすっかり不機嫌になって嫌々登校した。 マラソン大会は学校のそばにある川沿いの土手を5キロ走ることになっている。男子も女子も同じコースで、女子は男子の20分後にスタートだった。 レース開始のホイッスルを先生が鳴らすと、あっという間に海原君の背中が遠ざかっていく。  そのまま日本を縦断すればいいよ。なんなら、天竺(てんじく)までお経を取りに走って行って、帰って来なくていいよ。  僕は早くも息を切らしながら、みっともなくそんなことを考えた。  周りの生徒たちは容赦なく僕のことを抜き去っていく。  やがて遅れてスタートした女子たちからも僕は抜かれ始めた。  走っていることで息が乱れ、鼓動が早くなっているのに、羞恥心で更に呼吸が荒くなり、頬が上気するのを感じる。  もう棄権しようかな……。  男子で棄権するのはかなり恥ずかしいことだけど、これ以上気力が持ちそうにない。三年生の来年はマラソン大会がないから、今日が終われば一生マラソンから解放される。今頑張る意味なんて僕には何もない。  そんなことを考えて、土手の上に等間隔に立っている先生の一人に思い切って声をかけようとした時、僕はすぐ隣を神崎さんが走っていることに気がついた。  驚いた。去年は完走することもできなかった神崎さんが、20分も先にスタートしている僕と併走しているのだ。女子としては速い方に違いない。
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