マラソン大会と雨と僕の片思い

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 僕の胸のうちにむくむくと、「負けたくない」という気持ちが沸き起こった。  それが何に負けたくないという気持ちなのか自分でもよくわからない。  神崎さんになのか。  海原君になのか。  自分自身になのか。  それとも、逆さてるてる坊主を100個も作ったのに、雨が降らなかった天気になのか。  僕はマラソンで乱れた意識の中でぐちゃぐちゃに絡まったその問の答えを考えながら、必死に足を動かした。  不意にパラパラと頭にひやりとしたものが落ちてきた。それはたちまち激しくなって行く。  走っている生徒達から「わっ雨」と言う声があちこちで上がる。  やがて体育教師が拡声器で声を張り上げる。 「マラソン大会は中止にします。すぐに走るのをやめて、近くに立っている先生の元に行って下さい」  僕はそのアナウンスを聞いて、走るのをやめて歩き出そうとした。けれども……。  隣を走る神崎さんは一向に歩き出す素振りを見せなかった。むしろスピードが上がったようにすら見える。雨粒に濡れたメガネを取ると、神崎さんは歩き出した生徒達を韋駄天のように次々と抜き去って行く。  その姿が何だか痛快で、僕の胸の内に雲一つない青空が広がり虹がかかる。  緩めた足取りを再び速め、僕も神崎さんに追いつくと、並んで走った。  神崎さんは隣を走る僕にまるで気づかない様子で、ひたすらすっすはっはと規則正しい呼吸のリズムを崩さずに走り続けている。そんな神崎さんが僕はやっぱり好きだと思った。 「そこの二人! マラソン大会は中止だ! 走るのをやめなさい!」  体育教師の声が強い調子で響いたけど、僕と神崎さんは降りしきる雨の中どこまでも走り続ける。  雨と汗がまじってずぶ濡れになりながら、色々な想いがきれいに浄化されて行く。  勝ったな、と僕は思った。何に勝ったかわからないけど、僕は今確かに何かに勝ったんだ。  はるか先のゴールで、海原君が傘もささずに僕ら二人に大きく両手を振っているのが目に入った。                                                          <FIN>
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