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ワンゲル部は三学年合わせても10人ほどの、一応運動部らしい。デカいリュックを背負って重装備で外周を歩いているのを時々見かけた。
何が楽しくて…と思ったものだ。
運動部の三年生は、野球や陸上以外は5月の連休くらいに、負ければ終わり。後は受験勉強真っしぐらだが、ワンゲルの三年生は、週末の活動には気分転換とやらで参加しているらしい。
と、同じクラスのカイが言っていた。
その日まで、特に話すこともなかった大人し目の奴だ。
山間いを走る電車は、観光客で混んでいた。
部の連中はお揃いのユニフォーム姿で、如何にも山登りに行きます。みたいなオーラがあって、なんか、一寸カッコ良く見えたりもした。
一人浮いてる俺は、多分、観光客です。みたいな顔をしていたと思う。
そんな俺を気遣ってか、カイは何気に話し掛けて来た。
春には花巡りに魚釣り。夏には天文台で星を学び、キャンプ。秋は山歩き。冬には冬季限定の星空列車乗車予定。などと、ワンゲル部の年間スケジュールを楽しそうに話してくれた。
ふぅん…って感じだった。
テニスで鍛えた足腰を舐めるなよ。と思ったが、慣れない山歩きは結構キツかった。
カイは俺の後ろを黙って歩いていた。
木立の中をどのくらい登ったのだろう。
開けた場所に到着すると、紅葉の大パノラマが広がっていた。
まるで、自分がドローンにでもなったかのように。
歩きながら、木々が紅葉しているのはわかっていたけれど、その風景は圧巻で、思わず声をあげそうになった。
風景に感動するとか、一寸恥ずかしかった。
そんな俺の横でカイが先生と話をしていた。
「錦秋の立田姫ですね。凄い綺麗」
「来月になると、更に深い色になるだろうね。今日は晴れて良かった。な、リク。どうだ」
「うん…」
俺はこの時、先生にもカイにも礼も言えず、なんかカッコ悪かった。
キンシュウノタツタヒメ
とは、秋を司る女神で、春は佐保姫、夏は筒姫、冬は宇津田姫、五行信仰からなる東西南北を春秋夏冬に当てて平城京を取り巻く山に依る神様なのだと、
下山をして足湯に浸かりながら、カイが教えてくれた。
古典か?日本史か?こ難しい知識を持った奴だった。嫌味に聞こえないのは、大人しく頼りなさそうな感じのせいかもしれなかった。
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