渡り鳥

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 あの日見た紅葉の景色は今でも鮮やかに覚えている。 胸の中で燻っていた何か、どんよりぐずついた空の雲が吹き払われて、晴れ間が広がった気がした。 結局、テニス部を辞めはしなかったけれど、大学に入って、カイに誘われてついワンゲルサークルに入ったのも、ドストライク女子はさて置き、晴々とした風景を近くで感じたかったからかもしれない。 カイは花好き。似合っていると思う。 お母さんが押し花アートの教室をやっている影響だそうだ。 「確かに綺麗だけど、可哀想な気もする。鑑賞の為に摘み取ったものを無理矢理蘇生させるみたいで…。どんなに小さな花も咲いて散るのが自然だし、あるがままが一番美しいと思う」 と、ボソボソ言った。 なんだかんだで、高二から近い所に居る奴になった。 突然、天空の鳥居を言い出したのもカイだった。 秋の黒部が無事成功しますように。富士山にお願いしたい。とか言って。 天空などという、普段使いしない言葉の語感は、 壮大なロマンを感じさせるというか、夢見心地にさせるというか、担任のそのひと言から始まったのだ。 そして、また、秋が来るんだな。と思った。 素麺を食べて、ひと休みすると、ばあちゃんは、 「リク、ひと仕事始めるよ」 と言って立ち上がった。 昼下がりの温い風が吹いていた。
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