10人が本棚に入れています
本棚に追加
勇敢なラインマンは女子に敵わない
勇の心の彼女はスマホ恋愛ゲームの妹キャラ『いさみ』。
名前は任意で入力できたので、自分の勇という名にちなんで『いさみ』と名付けた。
童顔で垂れ目。
いつもユサユサと揺れている巨乳に、長い茶髪のストレートヘア。
短いスカートからは肉付きのよい太ももが露わに見える。
それがいつも谷間を見せながらすり寄って来るのだ。
「お兄ちゃん、あたしねぇ…」
髪が揺れる、胸が揺れる。
勇は何でも揺れる物が好き。
ロリコンで10代の若い女子高生が一番好きだ。
それを満たす存在が、『いさみ』だった。
なぜ好きなのか、と聞かれても答えられない。
年下の巨乳女子高生が好きな理由があるのだとすれば、それは本能としか言いようがない。
そして、そういう需要に応える産物は世の中に溢れるほどにあった。
さすがに新しく入るといわれた調理補助の人材が、年下巨乳女子である可能性を期待する事はなかったが、それでも『若い女の子』という言葉に胸が高まった。
期待しないでいる方が難しい。
朝起きて、いつもより張り切った気分で食堂に向かった。
中に入ると、いつものむさ苦しい連中の顔が見える。
「おはようございます」
「お、Pちゃんおはよ」
勇は皆からPちゃんと呼ばれていた。
トレーを持って、列に並びバイキング形式の朝食をトレーに乗せていく。
平皿を二つ乗せて、そこに丸パン、オムレツ、プチトマトを乗せた。
そのまま白米も盛り、焼きシャケを乗せ、白菜漬け、肉じゃがを何も考えずにゴチャゴチャと盛っていく。
チラリと覗いた調理場にいつものおばちゃんが見える。
必死で新しい人を探した。
見当たらない。
一旦トレーを空いたテーブルに載せて、列の二周目に入った。
トレーにスープ皿を二つ置き、そこにコーンスープと味噌汁を入れた。
和洋折衷の朝ご飯だ。
腹が満たされれば、何でもいい。
質より量。
「あ、春日ちゃん。ねー、ここに独り者の兄ちゃんいるんだけどさ、どうよ?」
課長の長澤さんの声が聞こえた。
その声の方を見ると、白い三角巾を着けた棒人間が見える。
顔はメガネとマスクで覆われて、正体はわからない。
体に凹凸はなく、平面的で長い髪など見当たらなかった。
瞬時に新しく入った、調理補助の女性だとわかった。
けれど、期待を大きく外れて地味で華のない彼女には、勇の理想とする巨乳も茶髪のロングヘアもない。
スープ皿の載ったトレーをテーブルに運んでから、課長の方へ歩いて行った。
「ども」
ただそれだけ言って頭をペコリと下げた。
すると棒人間のような女性が、メガネの奥のキラキラした瞳でニッコリ微笑んだ。
「おはようございます。今日も一日頑張ってください」
勇はリアルな三次元の彼女に面食らった。
自分の理想とはかけ離れた彼女のそのリアルな瞳と声が、自分を動揺させる。
揺れる物も何もない彼女のせいで、勇の心が揺れた。
リアル女性の威力はすごい。
「あ、ありがとうございます」
直角で頭を下げて、ギャラリーの爆笑を誘った。
最初のコメントを投稿しよう!