ラインマンの誇り

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ラインマンの誇り

勇の中で妹キャラの『いさみ』は言った。 「だって、私はお兄ちゃんのなのよ。たとえリアルの世界でお兄ちゃんに好きな人ができても、恋人ができても何も気を病む事なんかないんだから」 その時から『いさみ』は二次元の彼女ではなく、二次元の妹となって心に住む事になった。 「だから私はお兄ちゃんの事、応援する。もちろん、恋が成就する事をお祈りしてるわ、頑張って!」 勇は少しだけ自分の中で生じた変化に戸惑った。 リアルの女性との恋愛を成就させようという心理が働いている。 なぜだろう? 自分は『いさみ』だけで充分満足していたのに。 本当の理想の女性は、茶髪で巨乳の女子高生キャラの『いさみ』なのだ。 そのヴィジュアルは、譲り難い絶対条件であるはずなのに、いとも簡単にそのハードルを飛び越えて春日という平面体の女性を求め始めている。 『いさみ』にはない物が、彼女にはあった。 それは彼女が言葉にした『尊敬』というワード。 「電力網を命懸けで守るラインマンは私にとってヒーローです。尊敬してます。心から応援してるんです」 強烈なカウンターパンチで、一発KOだった。 『いさみ』は谷間ですり寄るセクシーキャラだけれど、自分の本当に欲しい物を与えてくれない。 自分が本当に欲しかったのは、命を張って立ち向かう労力に対する感謝や、尊敬だった。 それが自尊心と満足感を与える。 巨乳にはそれができない。 必要とされている事を実感したかったのだ。 もし自分が『日の丸決死隊』の若者だったとしたら。 帰りの燃料を積んでいないボロの零式戦闘機で敵の戦艦に体当たり攻撃をせよとの命令が下り、国民に知られる事もなくその命が散る。 大抵は誰にも知られずに散っていくだろう。 皆「天皇陛下、万歳!」と言って散るべきかもしれないが、ほとんどの者は「お母さん!」と叫んで散って行く。 国を守るため、その父や母、妹や弟を守るためだ。 けれど、ありがとうと言ってもらいたいじゃないか、国のために捧げる命を尊いと思ってもらいたいじゃないか。 何より、その勇気を讃えてもらいたいじゃないか。 それを望むのは間違った事なのか? なぜそんな危険な仕事を自ら選んでいるのかと思うかもしれない。 けれど、どこかで誰かがやらねばならない危険な作業。 それを命を顧みず立ち向かう男たちがいて、それが多くの人たちの生活を支えているのだとしたら、それは誇るべき仕事だと言えると思うのだ。 勇は誇りを持っていた。 決して自分の命を軽んじている訳ではない。 それでも、自分の命を一番輝かせる事ができるのは、こうしてどこかの誰かのために、自分を役立てる事だった。 それこそが誇り、それこそが生き甲斐。
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