5人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「ウスイサチ!」
深夜も営業中の焼き鳥屋前で、園生猛士が手招きと共に呼びつける。
「だから、やめてよ。しかも声大きい」
「じゃあ、『カノン』か?」
「もっとダメ!」
入店から一週間。ホステス業を無事にこなしたお祝いにと、律儀な用心棒は就業後すぐに、待ち合わせ場所を添付したメッセージを寄越してきた。
「今日は、どこにいたの? フロアで見かけなかったけど」
いつもは黒服に紛れ、雑用係兼用心棒らしく目を光らせているはずが、まるで姿を現さなかったことに今さらながら気づく。苛立ったような貧乏ゆすりを見せながら、園生猛士は爪を噛んだ。
「外に出されてたんだよ。俺の本業はキャッチじゃねえっつうの!」
聞けば、オーナーママである響子からマネージャーの合澤経由で、客引きを依頼したらしい。
「二号店を準備してるけど、資金繰りが大変とかで。この三ヶ月は、営業時間中フル満卓が目標なんだと」
道理で今日は切れ目なく新規客が来店してきているはずだ、とサチは胸の内で頷いた。
「昔は『一見様はお断りです』とかなんとか、気取ったこと言ってたらしいけどな、あのババア」
「ちょっと……」
焼き鳥の串を振り回し毒づく園生猛士の腕を掴み、サチは小声で戒めた。そういえば、不機嫌になりかけた野島を色気と機転で制したミサトの戦法は鮮やかだった。
最初のコメントを投稿しよう!