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「『空気が読めない』って、私みたいな人間を差すんだね」
イヤホンから流れる音楽に聴き入る高嶺奏に向かって、独りごちる。
「それは、絶交してしまったお嬢様のもの。貰ったって言ったけど……」
今は高嶺奏の物となった、ビーズ細工の小さなグランドピアノ。彼の傍らに立つサチが何も言わずとも、鍵ごとそっと手に握らせてくれた。その懐かしい手触りを確かめながら、懺悔する。
「ホントは、盗んだの」
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パールピンクの可愛らしいランドセルのサイドチャームとして、彼女はそれを提げていた。羨ましかったけれど、見ているだけで満足だったのに……。
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「盗んだの。絶交した翌日に、誰も見ていない教室で。でも……」
罪悪感に苛まれた数日後、こっそり返そうと彼女の机上に置かれたランドセルに近づいたらば。
「もっとゴージャスな……キラッキラした新しいチャームを付けてたんだよね、すでに」
『そんなもので良かったら、くれてあげる。だから、もう馴れ馴れしくしてこないでね』
━━と、彼女自身が言ったわけではないけれど。
とてもとても惨めで、情けない体験だった。
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