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踏みつけられた、かたつむり。殻の中身は真っ黒で、ドロドロとした身が渦巻いている。
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「喜んで受け取ってくれたのに……そんないわく付きの品で、ごめんなさい」
無言のままノーリアクションだった高嶺奏は、いつの間にか両耳のイヤホンは外していた。そして目を合わすことなく、イヤホンを私の右耳へと差し入れる。
「え、何?」
流れてきたのは━━。
「カノン」
パッヘルベルの『カノン』を演奏するピアノの音色だ。タイトルなのか、私を呼んだのか。高嶺君は「カノン」と繰り返しながら、鍵盤を撫でるように白く細い指で私の頭を優しく包んだ。
「ありがとう。嫌な告白を聞いてくれて」
無関心なんかじゃない。
高嶺奏は、じっと傾聴していたのだ。
━━逃げることは、やめよう。
暗闇が白み始め、公園の遊具たちが薄っすらと姿を現し出す。もうじき、夜明けを迎えようとしていた。
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