episode 03 かたつむりの告白

9/10
前へ
/55ページ
次へ
*  踏みつけられた、かたつむり。殻の中身は真っ黒で、ドロドロとした身が渦巻いている。 * 「喜んで受け取ってくれたのに……そんないわく付きの品で、ごめんなさい」  無言のままノーリアクションだった高嶺奏は、いつの間にか両耳のイヤホンは外していた。そして目を合わすことなく、イヤホンを私の右耳へと差し入れる。 「え、何?」  流れてきたのは━━。 「カノン」  パッヘルベルの『カノン』を演奏するピアノの音色だ。タイトルなのか、私を呼んだのか。高嶺君は「カノン」と繰り返しながら、鍵盤を撫でるように白く細い指で私の頭を優しく包んだ。 「ありがとう。嫌な告白を聞いてくれて」  無関心なんかじゃない。  高嶺奏は、じっと傾聴していたのだ。 ━━逃げることは、やめよう。  暗闇が白み始め、公園の遊具たちが薄っすらと姿を現し出す。もうじき、夜明けを迎えようとしていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加