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高嶺奏を支えるべく、戦力になろうと決めたカノン(源氏名)こと碓氷幸の意気込みも虚しく。ピアノバーとして準備中である『glissando』二号店の進捗状況は、芳しくないといえた。
「ミサトが抜けた穴は大きいよね」
マネージャー・合澤が、珍しく愚痴めいた言葉をこぼす。看板ホステスとも言える人気を誇っていたミサトが、上顧客である野島と共に忽然と姿を消したのだ。頭を抱えたくなるのも無理はない。
オーナーママ・響子が資金繰りに走る一方で、息子であり(雑用係兼)専属ピアニストである高嶺奏もまた、密かに想いを寄せていたミサトの喪失に心を痛めている一人だった。
「ピアニスト、変わってないよね?」
「何か……下手になった?」
精彩を欠く演奏が続くことに、耳の肥えた一部の客から辛辣な感想が飛ぶ日もあった。
ナンバーワン・ホステスであるミサトの駆け落ち騒動は、二号店の開店準備どころか、本店の経営すら怪しい状況に追い込まれたまま━━漫然とした時だけが流れた。
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