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周辺に進展のないまま、季節だけが移り変わろうとしていた。
店休日となる週末の昼間。親子連れで賑わうショッピングモールを独り歩きながら、自分にとってほぼ未経験といえる光景をサチは目の当たりにしていた。
おもちゃやお菓子をねだる子どもたちと、彼らをなだめすかしながら歩く母親あるいは父親の姿。喧嘩口調で会話を交わしながらも、離れることなく寄り添い合っている。
振り返れば旅行は疎か、揃ってショッピングに出かけるという家族的なイベントの一切が記憶の中に残っていない。空白のアルバムを閉じつつ必需品の購入を済ませると、当たり前に連れ立ち歩く親子らの合間をサチは早足で通り抜けた。
帰り間際、フードコートのカフェへ寄ってみた。雑貨屋で手に入れた割引チケットを使って一杯のホットコーヒーを購入し、一息つく。
「悪くないよ、独りも」
カップから立ち上る暖かい香りが、独りで過ごす休日に彩りを与えてくれるように思えた。
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