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一夜明け、青空に輝く陽が昇りきる頃。すべてが夢の中の出来事であったかのように、すっかり高嶺奏も平熱に回復していた。
ベッドから起き上がるなり「グー」と節をつけてお腹を鳴らす彼に吹き出し笑いをしつつ、出前のチラシを差し出した。
「お腹すいたね。好きな物を頼んでいいよ」
一人なら絶対利用しないであろうファストフード店の配達広告が、役に立つ日が来ようとは。食欲をそそられるメニューの数々をジッと眺めた末、高嶺奏は病み上がりに相応しくないチリ味のチキンを指さした。
「本気?」と尋ねるサチに顎を突き出し頷く様子は、生意気な弟のようでもある。
それから十五分ほどが経過しただろうか。二人が差し向かいでコーヒーを飲んでいると、玄関ドアの呼び鈴が鳴った。
「すごい。早くない?」
てっきり料理が届いたのだと思った。ドアスコープを確認することなく玄関扉を開いた後、サチは深く息を飲む。
目の前に立っていたのは、間口を塞ぐほど大柄な男。もう二度と交わることはないだろうと思っていた彼の名は……。
「久しぶり、ウスイサチ」
━━園生猛士、だ。
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