episode 05 砂の上の幸福

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「お前、雑用係兼ピアニストの……」  とにかく、檻から放たれた猛獣のような面持ちの園生猛士を落ち着かせなければ。 「あのね、聞いて……」 「なんだよ、今はコイツと付き合ってるの?」 「違うってば」 「違わねぇだろ、お前の服着て寛いで。どう見ても、一晩一緒に過ごしてるだろ!」 「確かに一晩泊めたけど、そうじゃなくて……」  言わなくてもいい事を言ってしまった。「一晩泊めた」という文言に、園生猛士は一瞬動揺したような表情を見せる。サチの肩をグイと押しのけるや、小柄で華奢な高嶺奏を睨み顔で威嚇しながら見下ろした。 「お前、やったのか?」 「よく分からない」と言いたげに、パジャマの裾を握ったまま高嶺奏は首を捻る。 「ねぇ、いい加減にして……」 「サチと……俺の女と寝たのかって聞いてんだよ!」  小声でモゴモゴと発した「俺の女」に対して、「寝たのか」の箇所だけは語気がやたらに強かった。そのせいか、問いかけに高嶺奏は素直にコクリと頷く。せり出した額の下に生える園生猛士の細い眉毛が、ピクリと動いた。 ━━「寝た」って……意味が違う! 「ねえ聞いて、違うの。高嶺君、ゆうべから具合が悪くて……」  二人の間に割って入ろうとした時には、園生猛士の拳が高嶺奏のみぞおちを突いていた。
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