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策士でなきゃ、クラブのオーナーなんてやってないよ。
……という反論は飲みこんだものの。清楚で小作りな目鼻立ちに薄化粧を施した響子は、確かに凡そ派手好みなイメージの水商売とは無縁な雰囲気を醸し出している。
さらに、当たり前といえば当たり前なのだけれど。雑用係兼ピアニストである『高嶺奏』と並べば、二人は言わずとも母と息子であると周知されるほどに瓜二つだった。
「カノンちゃん、ミサトちゃんのヘルプについてくれる? 五番テーブル」
手招きをしておきながら自ら赴いた響子は、店内で一番見栄えの良い五番テーブルを指し示す。接客をしているのは、クラブ『glissando』の看板ホステスであるミサトだった。
入店初日から、響子はマネージャーの合澤や黒服を介さず直々に『カノン』へ指示を与えた。合澤いわく、「期待の表れだよ。ママは推してるからね、カノンを」と。
人目を引くほどの美貌も、人たらしと言えるほどの社交性も、何も持たない。響子が自分のどこに期待をして推しているといえるのだろう。
半信半疑なまま『ドナドナ』の子牛のごとく黒服へと引き渡された『カノン』は、五番テーブルへとたどり着いた。
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