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胸がちりちりとして、熱い。
そうかと思えば、重くどんよりと、冷たい。
そんな感情が、こころの中で、交互に湧き上がる。
そして、私――宇佐カオル――は、その場に立ち尽くしてしまった。
目の奥はツンとするのに、涙は出てこない。
私の目は、涙を流すという役目よりも、凝視する、ということに集中してしまっていた。
「カオル? どうした? フヌケ状態で」
肩を小突いてきたのは――柚実(よしみ)だ。私と同じ大学で、同じ学部のクラスメイトだ。
彼女は、ひと言で言えば、美人で天真爛漫な破天荒な人間。
そのロングストレートの髪の毛と同じ色の、黒目がちな瞳で私をしげしげと見つめ、そして察知したらしい。
「また秋一くんを、目撃しちゃったのね」
そう言うやいなや、柚実はぎゅっと私を抱きしめてくる。
こうして抱きしめられるだけでも、ほんの少しは癒される。
ここは、大学キャンパス内の、学生生協前という人の往来の多いところだけれども、そんなことに構ってなどいられなかった。
私は柚実の背中に手を回し、ぎゅっと強く、すがりつくように、抱きしめ返した。
ああ、この重くて熱い気持ちが、柚実のハートにちょっとでも吸収されればいいのにと私は思う。
重なる胸と胸。
吸い取って欲しいのだ。このぐちゃぐちゃで苦しい思いを。
「秋一……、今、新しい彼女と、手ぇ繋いで、生協から出てきた」
私が絞るように声を出すと、柚実はぽんぽん、とまるで子どもをあやすかのように、背中を叩いてくれる。
「苦しいのね、まだ。仕方ないね」
「……うん」
「だけど、人を刺したり、狂乱しちゃダメよ。アンタ、先月ハタチになったばかりでしょう。事件起こすと、新聞に実名で載っちゃうわよ」
「……うん」
柚実の少々おかしな警告にも、笑うことすらできないでいた。
長い間、秋一と一緒に“人”という文字を形成していたんだ。
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