願い

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父に優さんの家に行ってくると言うと、 「そうかい、饅頭あるから持っていきなさい」 と笑顔でいつも言ってくれる。 優さんは、甘いものが大好きなのだ。 雨はそれ程強くなく、傘にあたる音の旋律がとても心地よい。 いつもは外にいて私が通ると、 「花ちゃん」 と声をかけてくる長屋の人達は、雨のせいか一人もいなかった。 垣根の入り口を入っていくと、ちょうど優さんが、玄関で濡れた着物の袖を拭いていた。 「花さん、万さん」 と私達に気付いた優さんは笑顔で言い、 「早く中に入ってください」 と言って、家の中に入っていく。 私達が、玄関に入ると、 「これで拭いてください」 と私達に手ぬぐいを手渡した。 「優さん、ありがとう」 と私達は言って、袖や裾の濡れた所を拭き、 「お饅頭持ってきました」 と万が、袋に入った饅頭を優さんに手渡すと、 「いつもありがとうございます。  お茶いれてくるので待っていてください」 と優さんは言ってから、深く頭を下げて奥に入っていく。 部屋の中は、いつ来てももきれいに片付いており、隅々まで掃除がしてある。 机の上には、描いている途中の絵が置いてあった。 「雨の中わざわざ来ていただきありがとうございます」 と優さんは言いながら、私達の前にお茶と饅頭を置き、私達と向き合って座った。 いつも優さんの家には、たくさんの人が集まるので、万はいるが二人きりになれたことがとてもうれしかった。
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