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「雨、降って」
今までこんなことお願いしたこと無かった。
傘は邪魔だし、着物は濡れ、泥がはねて裾は汚れる。
だから雨は嫌いだった。
でも、今は違う。
雨が降れば、優さんが道場から直接帰ってくるからだ。
雨が降っていないといいと思ったものを優さんは描いてくるから帰りが遅くなる。
そうすると一緒にいる時間が短くなるからだ。
願いが通じたのか、屋根にぱらぱらと雨の降ってくる音が聞こえてきた。
「万」
と私は、部屋で片付けをしてくれている侍女に声をかけると、
「はい」
と手を止めて万は返事をし、私の方を見たので、
「優さんの家に行きましょう」
と読んでいた本を閉じて言うと、
「かしこまりました」
とうれしそうな顔をして返事をする。
他の所に行く時には、感情のない返事をするのに優さんの家に行く時は、今のようにうれしそうだ。
おそらく万も優さんに好意を持っているのだろう。
他の女の人達もそうだ。
優さんと並んで歩いていると刀の様な鋭い視線を感じる。
顔がよく、誰にでも優しく、剣も強くて、絵も上手い
とくれば、誰でも優さんに好意を持つはずだ。
もちろん私も優さんに好意を持っている。
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