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けれども、こんな運命的な出会いを得ても、私達はなんとなく感じていた。
口にしなくてもわかっていた。
心の奥深く。魂に近い場所で。
私達の人生は混じり合っても、決して一つにはなれないことを。
それぞれの時間の中で築き上げてきた人生を壊してまで、私利私欲に生きれないことを。
ずっと長い間、私達はいろんなことを諦めて生きてきてしまったから。
あさちゃんから全てを聞いた渓が、今までのことを全て話すから戻ってきてほしいと伝えてきた時も、彼は私が渓を見限れないこと、渓が何れ私を迎えに来ることを悟っていた。
──君はいつもの日常に戻ればいい。君がずっと大切にしてきたものを、手放す必要はないんだ。その時は僕も自分の行くべき場所に戻るから、何も心配はいらない
夏の白いひざしが差し込む部屋で、私は彼の腕に包まりながらきいていた。
──君と僕はセカンドパートナーとして生きていこう。僕達はどんなに離れても、分け合った命で繋がっている。ずっとこの先も。
魂の片割れと引き裂かれるようで、私は悲しくて堪らなかった。
ポロポロと流れ落ちる私の涙を彼は手で拭うと、永遠の指切りのように何度も唇を重ねてきた。
そしてその翌日、渓が疲れ切った顔で私を迎えに来た。
渓は、私達を責めることも問い正すこともせず、ただ谷原さんに深々と頭を下げると、黙って私の手を引いて部屋から連れ出した。
谷原さんは私を見送る時、穏やかに微笑んでいたけれど、涼しげな瞳は寂しさを湛え赤く揺れていた。
それから1ヶ月後、彼はメレンダの2階を引き上げ、バーテンダーの技術を磨くためメルボルンへと旅立った。
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