プロローグ

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プロローグ

 あの人も今、目を覚ましている頃だろうか?  ベッドサイドのカーテンの隙間から僅かに覗く、薄ら白い空を見上げていた。  生まれたての夏の陽射しが、まだ覚め切らない目に差し込んでくる。    Androidの着メロが鳴り響いた。  午前6時。  ノラ・ジョーンズのホイップクリームのような軽やかな声が、朝の空気に溶け込んでいく。  目覚ましというより、このまま眠ってしまいたくなる。指でタップして止めた。  レコード盤を切り抜いて、ジャズバンドの奏者をシルエットにした壁掛け時計が、チコチコと音を刻んでいる。  ジャズ好きな夫が、ネットのオークションで落として私にくれたものだ。  慎重に年季の入った秒針のリズムに耳をすまし、まだ浮遊する意識を体に戻していく。  うっかり夢の続きに巻き戻って、目覚める場所を間違わないように。    背中を包む甘い体温。  肌を這う熱い手の平。  耳元をかすめるアルコールの混じった気怠い息。  自分が誰なのかすら忘れるくらい、あの人は確かに私の中にいた。  夫を受け入れたあとに迎える朝は、きまって私の心と体に刻印された、あの人の感覚が蘇ってくる。
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