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コンパで出会った俺たち。モデルみたいに可愛いその女の子に一目惚れをしてすぐに交際が始まった。一方的に俺がアプローチをかけて落としたのだが、気がつけばそんな勢いはどこかにいってしまっている。
俺は本当に藍華を好きなんだろうか。
「……尚樹もそう思ってるんだ」
「いや、そんなこと……ないって」
藍華がいなくなることを考えると、寂しさに耐えられないのは事実。でもそれは藍華だからなのか? それとも他の女でもそれを埋められるのか?
一瞬の間にそんなことを考えてしまい、俺は次に言葉を繋げることができなかった。
「尚樹は私のこともう好きじゃないんだ」
「いや、違うって。好きだよ、好きなんだよ」
「うそ。そんな上部だけのうそなんて、もういらないよ」
藍華は涙を拭うと、その格好のまま玄関へと向かう。
「どこ行くんだよ」
「どこだっていいでしょ。尚樹には関係ない」
彼女は靴を履き、一度振り返る。
「もう、終わりだよね?」
「……ちょ、待てよ」
彼女が離れていくことを実感した途端、心がざわつく。身勝手な奴だと自分でも思った。
「荷物は、尚樹がいないときに取りに来るから。じゃあね、ばいばい」
「待てよ、おい、待てって」
玄関のドアが閉まる。無音が広がっていき、静寂が訪れる。俺は大事なものを失ってしまった、そんな気がした。
いいのか、これで本当にいいのか。
自問自答を繰り返し、何度も頭を掻く。一秒が長く、そして短い。ほんの数秒で決断しなければならないこの状況。
悩む前に、俺は立ち上がっていた。
追わなきゃ。追いかけるべきだろ。今あいつを手放してなんになる? 俺にとって、藍華は大切なパートナーだ。離しちゃいけない。
玄関に向かい、靴を探す。しかし、三和土に置いてあったはずのスニーカーが消えていた。あったのは今日一日履いていたサンダルのみ。靴箱からも靴はすべて消えている。お気に入りのスニーカーもなにもかも。
「え、なんで?」
パニックになりながらも、俺はとにかく彼女を追うことだけに専念した。走りにくいサンダルのままドアを開けて部屋を出る。廊下には藍華の姿はない。
マンションの五階。エレベーターまで走る。パタパタと音が響いていく。カゴが一階から上がってくるのが異様に長く感じた。扉が開き、エレベーターに乗り込む。一階へと降りる間、あいつのことだけを考えていた。そしてエントランスへと降り立った。
オートロックの自動ドアを開けると、闇は満ちていて静けさだけが街に残っていた。
どこだ、藍華はどこに行った?
辺りを見渡していたとき、自宅からすぐ近くにある坂を駆け上がっていくピンク色のTシャツが見えた。
「藍華!」
夜中だとか、近所迷惑だとか、そんなことを気にしてなんていられない。
俺は目一杯デカい声でそう叫んだ。彼女を掴まえるために。俺は、走り出したんだ。
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