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「そうなんですかね。色々と考えているんですね。部屋の中の会話も隠しカメラで見させていただきましたけど、彼女さんのあの感じって演技だったんですかね。だとしたら凄いし、ちょっと怖いと思いました」  そうなんです。我々も藍華さんのあの涙や声を震わせる表情など、演技なのか本心なのかわかりかねる部分もありました。  一応、事前にスタッフと打ち合わせを行なっておりますので、演技であることは間違いないのですが、別れ話が出たときは我々も驚きました。 「そうなんですよね。僕のときもそうだったんですが、簡単に涙を見せるんですよね女性って。それが本当に自然で。だから僕もテンパっちゃって」  頭を混乱させておいて、追いかけることだけに集中させる、と。まさに策士ですね。    では意識を今回の二人に戻しましょう。  彼女の方はもうすでに坂を登り終わりそうなところまで来ております。  一方、尚樹さんの場合はまだまだ坂を登り始めたところです。もうすでに息は上がっており、ハアハアという息遣いが聞こえてきます。  足元はサンダル。それに多少のアルコールと喫煙習慣、そして普段から来る運動不足が効いている様です。  それでも彼は足を止めることはありません。声を振り絞り、何度も何度も叫んでおります。 『藍華! 待てって、ハアハア、藍華!』  夜の街中は静まり返っております。その静寂の中に響く尚樹さんの声であります。  薄暗い街灯に照らされた彼の表情ははっきりとは映し出されてはおりませんが、おそらく額からは大量の汗が流れ、吐き気を催しながらも懸命に走り続けている模様です。  この長い長い坂道を、必死になって進み続ける。まだ先は長い。それでも彼は両足を止めることなく走っております。    そういったところで彼女の方は今、坂を登り切り、この児童公園へとやって参りました。夜の九時を回ったところですから、人の気配はありません。  公園にはベンチがありまして、彼女はそこに倒れ込むようにしてその身を預けました。  ここはお二人にとって思い出の場所だとお聞きしています。  彼が藍華さんに愛を伝え、それに応えたのがこの公園だそうです。ベンチに並んで座り、告白をしたということでしょう。二人が結ばれた思い出の地。そんな場所をゴール地点に選んだ藍華さんは今、どんな思いで彼を待っているのでしょうか。  尚樹さんも彼女の姿を見ているはずです。児童公園へ入って行ったところを。
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