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「何って?」
質問の意図が分からず、思わず聞き返してしまった。
彼女はスマホから視線を外すことなく言った。
「深い意味はないよ。 ただ何か会社員とかにも見えないし、こんな時間に人気のない公園で一人で居るなんて変だなって」
──それはそのまま貴方にも言えますが。
そんな野暮な言葉は飲み込んだ。
「……劇団やってる」
「劇団?」
彼女の目が、スマホを離れてこちらを向く。
「あ、でも別に有名とかじゃなくて。 まだバイトもしてるし、ファンがいるとかそう言うのじゃないけど」
慌てて取り繕ってしまった。
ダサい言葉だ。
昔は誰に対しても夢を語れたが、いつの間にか、歳を重ねるにつれてそんな事出来なくなってしまった。
どうせ否定される。 どんなに真剣にやっていても、金を稼げずバイトに頼ってる内は趣味と同義にされてしまう。
決して趣味で舞台に立ってるつもりは無いのに。
「劇団かぁ」
ふわっと月明かりが届き、一瞬の間だけ彼女の姿を明るく照らした。
「いいね」
まん丸い目を細めながら、真っ直ぐな笑みでこちらを見る。
それはまるでスポットライトに当たっているような、そこだけ切り取られた非日常の様な、そんな風に感じた。
「……ありがとう」
そんなありきたりの言葉しか返せない自分が、また少しだけ嫌になった。
再び彼女はスマホの画面へ視線を落とし、静寂に包まれたのもつかの間、ポケットからトークアプリの着信を知らせる音が鳴り響いた。
「ごめん」
向こうもスマホを見ているし特に必要はないだろうが、一応横に居る彼女に断りを入れてポケットからスマホを取り出す。
画面を見ると、航大からの着信だった。
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