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提案と宣言
「と、いうわけだ。二十四、二十五は北猪川町で『水神信仰における歴史と伝統』についての特別講義とする。ただあまりに急で申し訳ないので、特典を付けることにした」
講堂がにわかにどよめきを帯びる。
「まず、参加者には今年度分の必須単位を一括プレゼントだ。当然、私の講義分だけだが。それから交通費、宿泊費共にこちらで賄う」
どよめきは今や種々雑多な声となって反響を繰り返していた。
そして、トドメの一言を突き刺す。
「つまりだ。タダで旅行できて、その上単位ももらえる。参加は自由だが……よもや、これを棒に振る輩はいないな?」
歓喜なのか驚嘆なのか、いずれにせよ明るめの声が多いことに、私はふっと胸を撫で下ろした。ここにいる全員が参加するとは限らないが、二十人もいれば御の字だ。少しは格好が付くだろう。
するとしばらくして、最後列付近から手が挙がった。恐ろしく色の抜けた茶色い髪がよく目立つが故に、その顔にあまり見覚えはなかった。きちんと出席していないか、していても後列で寝ているかだろう。
マイク越しに「質問かな?」と訊ねると、数十という視線が同じ動作を経て、ひとところに集中する。
「あのー。そこまでして、何が目的で行くんですか?」
やはり、彼は私の話をきちんと聞いていなかったようだ。だが彼のような者にこそ、「単位補償」の口説き文句が効くことは想像に容易い。現に、興味を示したからこその質問なのだろう。
「何だ、バナナがおやつかどうか訊いてくれるんじゃないのか。残念だ」
程々に抑えられたいくらかの苦笑い。やはり、どうにも私はユーモアのセンスが欠けているようだ。
「……言っただろう。雨を降らせに行くんだよ」
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