追うのはね

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とても仲の良い友達と彼女は話していた。女の子同士。そして高校生となると恋愛の話が多い。 「告白届いたのかい?」  友人からの言葉に彼女は机に伏せてしまった。どうやら良くないらしい。 「なんとなくはぐらかされた」 「どー言うこと?」  ぺったりとオデコを机に付けて彼女の語った言葉に、友人は理解できなかったみたいで腕を組んでいた。 「今は恋愛の暇が無いって」 「どんだけ偉いんだい! あたしが説教するわ!」  彼女の告白相手の返答に友人は憤慨していた。立ち上がるとダンダンッと足音を響かせて教室を離れる。向かうのは音楽室。彼女もサキソフォン担当として吹奏楽部に所属して、告白相手の部長がいつも居る部屋。  それを追うように彼女は「ちょっと待って!」と困った顔で急いでいた。 「別に悪気はなかったんだと思うよ」  そんな告白相手を擁護する言葉を彼女は友人に、教室から目的地の音楽室まで並べていた。しかし、そのくらいで友人の怒りは消えない。 「一言理由を聞かないと。好きじゃないならそう言われなきゃ、貴方が辛いでしょ」  確かに彼女は相手からキライなんて言われてない。でも、それは気付かった言葉だったのかもしれない。  彼女は考えた。告白相手から「好きじゃない」とか「彼女が居る」や「恋愛対象じゃない」なんて言われたらもっとショックだ。これはこれからの未来に生きる自信がなくなってしまう。 「辞めようよー!」  腕を引っ張ったが、友人はもう歩みを止めないで音楽室の重い扉を開いた。  防音になっている扉を開くと、音楽が聞こえた。トランペットの軽やかなメロディ。力強く、儚い。  彼女には直ぐにわかった。それは告白相手の彼が奏でている旋律だと。  そして確認すると、他に誰も居ない音楽室にはちょっと暗そうな男の子がトランペットを構えていた。彼だ。  音を聴かないで「ちょっと!」と友人が一歩踏み出した。その時に彼女は友人の前に回り込んで、縋るように抱き着いた。 「ホントーに、もう良いから。振られたのはしょうがない。私はこれで良いから」  あまりに彼女が強情なので「ホントに良いの?」と友人は弱った表情になっている。 「うん。もう良いの」  言葉を聞いて友人は「この子の為だ」と納得してため息をついた。  その時に音が消えた。 「誰?」  二人が顔を向けると、さっきまで気付きもしなかった彼が振り向いている。 「お邪魔しましたー。さよーならー」  彼女が直ぐ逃げた。もちろん友人を残して。だから「ちょち待ちなって」と友人は彼女が逃げ去ったほうを見て困った表情になる。 「もしかして、さっきの告白のこと?」 「あー、うん。そう。文句言おうかと思ったけど、彼女に止められちった」  友人は彼とはクラスが一緒なので顔見知りのよう。だから気さくに話している。 「だったら伝えてほしいんだ。さっきも逃げられたから」  彼が一度かしこまってトランペットを置いて友人に近付こうとした時だった。廊下の向こうのほうでドタバタっと物の崩れる音が聞こえた。 「ありゃ、ダメだ。話はまた今度! 今はちょっと彼女を落ち着かせようね」  悪口は言わないで友人は、急いで転んで棚を倒してしまった彼女を救けに向かう。  彼は友人から言われたのでちょっと俯くとまたトランペットを手に取った。
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