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葉山啓介の優先順位
俺は家族に内緒にしているが、殺し屋をしている。業界内では知らない奴はいないというほどの超一流の殺し屋だ。
俺に狙われて生き延びた奴は一人もいない。ターゲットを殺すために常に複数の殺害プランを立てていた。計画的に冷酷に人を殺していた。
しかしそんな俺がありえないミスを犯してしまった。ターゲット殺害予定日が息子の淳一の体育祭の日と被ってしまった。
ターゲットの名前は田所義夫。世界各地で売人を使って麻薬を売り捌き業界内で耳目を集める麻薬王だ。田所が潤沢な資金源で俺が所属する組織を潰しにかかってきた。
組織は話し合いを設けたが田所は全く応じることがなかった。そこで組織は田所の速やかな殺害を俺に依頼した。
田所は明日、休養のため俺が住んでいる街の別荘に来ると俺は組織から聞かされていた。俺は幾重にも渡る計画をいつも通り立てていたのに、体育祭のことはすっかり忘れていた。迂闊だった。明日を逃せば田所は海外に飛び立って手が出せなくなる。
俺は妻と息子に体育祭は絶対に参観すると話していた。仕事より家族との約束の方が俺の中では優先順位が遥かに高い。約束を守るという理由だけでなく、淳一の中学校最後の体育祭を俺はどうしても見たかった。
思案の末、結論に辿り着いた。もし明日、雨が降れば体育祭は延期になる。俺に残された希望はそこしかない。
俺が自宅で悩み苦しんでいる時に、息子が真剣に山ほどてるてる坊主を作って飾っていた。俺は体育祭で頑張りたいと純粋に思う息子に申し訳ない気持ちになったが、雨よ降れと強く強く願った。
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