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葉山淳一の悲哀
僕は明日、どうか晴れて欲しいと祈り続けた。小学生でもないのにてるてる坊主を大量に作った。そして遂に体育祭当日になった。
僕の祈りは通じなくて滝のような激しい雨が降り注いだ。僕は悲哀に暮れて一筋の涙を流した。
しかし僕とは対照的に父さんはとても喜んでいた。喜びを抑えようとしても口元や頬から溢れていた。
「淳一、残念だったな。でも延期した体育祭には必ず応援に行く。約束する」
「父さん、今日じゃなきゃダメだったんだ。来週じゃあ、意味がないんだ!」
父さんが小首を傾げていた。しまった。余計なことを話してしまった。
「なんで来週ではダメなんだ? 何か都合が悪いのか?」
僕は父さんの顔を横目で見てから、俯いて深く溜め息を吐いた。
「人生ってうまくいかないね」
「何の話なのかさっぱりわからないが、来週の体育祭、楽しみにしているからな。じゃあ父さんは仕事に行ってくるから」
僕が項垂れていると母さんに優しく声をかけられた。僕の気のせいかもしれないけど、母さんの瞳の奥が笑っているように思えた。
「本当に残念だったわね。でも母さんも父さんも来週の体育祭には必ず行くから元気出してね!」
僕は本当のことを言えないもどかしさがあった。好きな女の子に告白するために体育祭が晴れて欲しかったなんて両親にはとても言えなかった。
父さんが家を出ようとする時に母さんが声をかけた。
「あなた。大雨の中、大変ね。でも頑張ってね」
「ありがとう。行ってくる」
二人とも幸せそうだった。僕がこんなにも悲しい思いをしていることを知らないでなんて呑気なんだ。
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