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伊藤美咲の願望
私は大学四年生で二十一才の女。竹林中学校で教育実習を受けることになった。
私が教師になろうと思ったのは、単純に若い男の子に出会えるからという理由だった。教師としてはあるまじき不純な気持ちを抱いていた。
学校で淳一君と出会って、私はすぐに恋に落ちた。恋を知らない若くて逞しい淳一君を見るために真面目に実習生として学校に通った。
淳一君と一緒になりたいと思いながら私は告白できずにいた。迷っているうちに体育祭前日になった。
運動が得意な淳一君が活躍する所をこの目で見たいと思った。そして体育祭が終わったら告白しよう。私は体育祭の日が晴れることを祈った。
体育祭が雨で延期になることで学校が休校になっても、淳一君が住んでいる家は調べてあったので会いに行けばいいと思っていた。私の教育実習は体育祭の日までだから、もう学校で会うことはできなくなるけど。
しかし私の計画を狂わせることが起こった。私を愛人にしている麻薬王の田所から連絡があり、田所の別荘に行かなければならなくなった。
私には世界を揺るがす麻薬王の愛人という裏の顔があった。田所は私に有り余るほどの金を与えてくれた。でも私はいくら金を得ても満足しなかった。
田所と私は五十才以上も離れている。麻薬王という肩書きがなければ、年相応に老けたただのおじいちゃん。そんな男に私は全く愛を感じなかった。
田所と付き合い始めた時は金の魔力に惹かれていた。でもそれは昔の話。今は若い男にしか私は興味がなかった。
田所と別れて淳一君の元に走りたい。そう願っていたけど、私が別れ話を切り出せば田所は躊躇なく私を殺すだろう。
田所は別荘で私と過ごした後、海外に私を連れて行くと言っていた。そうなればもう淳一君と会うことはできないだろう。帰国して淳一君の元に行こうとしても田所にやはり止められるのは明白だから。
私は叶わぬ恋だったと深く嘆いていた時に事件は起こった。田所が何者かに狙撃された。田所はたった一発の弾丸でこの世を去った。
私は田所の護衛達の前で大袈裟なほど涙を流して悲壮感を装ったけど、内心は嬉しさで口元から笑みが溢れるのを我慢していた。
私は別荘から逃げ出して淳一君に会うために走った。淳一君の家に着くと母親が出迎えてくれた。
私の姿を見ると母親は目を見開いて驚き、そしてなぜか露骨に嫌そうな顔をしていた。私は母親に淳一君に会いたい旨を伝えると、眉間に皺を寄せて断られた。
でも私は何度もお願いして、淳一君を呼んでくれるように頼んだ。淳一君が玄関まで走ってきてくれて、私は手を取り合って再会を喜んだ。私は淳一君と一生を遂げたいと思った。
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