葉山恵子の観察

1/1
前へ
/7ページ
次へ

葉山恵子の観察

 私は夫の啓介と息子の淳一の三人で幸せな生活を送っていた。夫がサラリーマンではなく、殺し屋をしていることは長年の観察でわかっていた。  それでも知らないふりをしていた。どんな人を殺しているかはわからないけど、夫の収入が高額だったから。  しかし私の知らない所で幸せな家庭に亀裂が入っていることに気づいた。それは息子の授業参観に行ってわかった。  担任が授業をしている時に、部屋の隅に教育実習生の伊藤美咲という人物がいた。第一印象は若くてとても綺麗で真面目な実習生。でも息子と伊藤が話しているのを観察していて確信した。二人は相思相愛の恋をしている。  まだ中学生の子供が実習生と結ばれるなんて絶対に認めたくなかった。二人とも恋をしているけど、まだ告白はしてないようだ。  実習生は体育祭の日まで学校に来ることがわかっていた。運動が得意な息子が体育祭でいい所を見せて告白することも考えられる。しかし体育祭が延期になれば息子が実習生と会うことはない。  私は雨よ降れと祈りを捧げた。そして体育祭当日、私の祈りが通じたのか体育祭は大雨で中止になった。  私は嬉しくて堪らなかったけど、なぜか夫も嬉しそうだった。それに比べて息子は悲しみに暮れていたけど、私は大人になってから真面目な恋をして欲しいと思った。  夫が仕事に行くのを見て私はまた殺しをして稼いでくるのだと察した。どこの誰を殺すのか知らないけど夫が無事に殺して金を家に運んでくれることを願った。  夕方になって夫が帰ってきた。夫の顔は明るかった、私はそれを見てさらに嬉しくなった。私の家庭は守られたと思った。  そんな時に、インターホンが押されて出てみると伊藤の声が聞こえて、私は絶叫しそうになった。どういうことなんだろう。  伊藤は体育祭が雨で延期になって諦めたと思っていた。まさか自宅まで来るとは。私は伊藤を一歩も家に入れたくなかった。  何度も断ったけど伊藤は全く引かなかった。なんて強情な女なんだ。私は渋々、伊藤を息子と合わせた。伊藤と会った時の息子の表情が今まで見たことがない素晴らしい笑顔をしていたので、私は落ち込みながら、伊藤を激しく睨んだ。  体育祭は雨が降って私の幸せな家庭は続くと思っていたのに、まさかこんな結末になるとは。雨が降らない方が良かったのだろうか。私の頭の中で多くの疑問符が舞った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加